「塩梅」(あんばい)はもともと宋の時代の書物にでてくる言葉で、塩と梅酢をくみあわせた調味料を指しています。塩と梅酢の割合が良ければバランスのとれた味の良い調味料となります。それから、物事が調和していることを指すようになりました。調和は量だけでなく時間もかかわってきます。To every thing there is a season, and a time to every purpose under the heaven:何事にも定まった時期があり、すべての営みには時があります。「量」と「時」をわきまえると、最高の「質」になる。梅干づくりには、先人たちから培った千年の知恵があります。
コンテナに集められた大小さまざまな梅の実。緑と黄色そして赤い収穫したての梅は、運動会から帰って来た子供のようです。
洗浄した後、選別機にかけます。シャワーとブラシにかけられ、選別機の筒の上を梅の実が走るように転がっていきます。穴の大きさによってサイズを選別し、小さな実から順に穴に落ちていき、最後まで残った梅が一番大粒の梅です。洗い上がった梅の実が緑の宝石のように輝いています。
梅を漬け込むため、選り分けられた梅と塩をタンクの中へ入れます。(昔は、木の樽を使っていました。)梅と塩は、交互に入れます。使用している塩は、世界遺産に登録されているオーストラリアのシャークベイで採れた熟成天日塩です。
清らかな塩の粒を入れる様は、神聖な儀式のよう。先程まで走りまわっていた梅は、一粒一粒清められ、1ヶ月ほどの眠りにつきます。
梅の果汁がにじみでて、次第に塩が溶けていきます。まるで、春の訪れを告げる解氷のようです。梅の果汁と塩が合わさったものを梅酢と呼びます。漬け込みが終わったら、柔らかい実をつぶさないよう、そっとすくい上げます。
長い梅雨が明けると、漬け込みを終えた梅の実を一粒づつ丁寧に並べ、3日間天日の下に置きます。乾燥してくると、実の表面にはうっすらと白い粉があらわれてきます。これは、塩やクエン酸で、海の恵みと畑の恵みの結晶です。
雨にあたらないよう、屋上のハウスにならべられた梅は、遠々とつづく畑のようにもみえます。「返し」といって、むらなく干すために一粒、一粒裏返す作業をします。ハウスの中は40℃を超えるときもあります。
昼間の太陽と夜の湿気が梅に刻んだ表情は、砂漠に残された古代の遺跡を思わせます。こうして自然と人が何度も交錯して、一粒の梅干が出来上がります。